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Ryuichi Sakamoto / opus

最近の収穫

坂本龍一、ラストライブ

坂本龍一が亡くなって早いもので1年が過ぎた。

今回紹介するのは生前の坂本龍一のピアノソロ演奏のみを集成した映画「opus」である。

予告編

まずはこの予告編を見ていただくのが概要把握には最適だろう

坂本龍一自身が選曲した、これまでの軌跡を辿る20曲で構成
極上の映像と音楽で魅せる最初で最後の長編コンサート映画

世界的音楽家、坂本龍一。1978年のデビュー以降“教授”の愛称で親しまれ、2023年3月に永眠するまで数々のアーティストに影響を与え、音楽シーンを牽引、精力的に国内外での活動を展開してきた。2年以上となる闘病生活を続けていた彼が、最後の力を振り絞り演奏した映像収録は、2022年9月、坂本が「日本でいちばん音のいいスタジオ」と評する東京のNHK509スタジオで8日間に渡り行われた。撮影で使用したのは2000年に坂本のためにカスタムメイドされ、長年コンサートやレコーディングで愛用したヤマハのグランドピアノのみ。名曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」、坂本の最後のアルバム「12」からの曲、そして初めてピアノ・ソロで演奏されたYMO時代の「Tong Poo」まで、自身が選曲した20曲から構成。ボーダーを越え活動を続けた坂本の軌跡を辿る曲目、鍵盤を奏でる指と音楽家の息遣い、その人生が刻みこまれた手。坂本自身がアプルーブし、入念なポストプロダクションを経てこの映画が完成した。坂本が全面的に信頼を寄せた監督と撮影クルーたちが慎重に撮影プランを練り上げ、全編モノクロームの親密かつ厳密な世界でひとつしかない宝物のような空間を生み出した。奇跡とも思える美しく儚い演奏は今、私たちの心に深く刻み込まれる。

「opus」オフィシャルサイトより引用

映画館の優れた音響

今回私は会社の有給を利用して、平日の午前にこの映画を見にいった。劇場は「TOHOシネマズ日本橋」、メインスクリーンに独自規格のラージスクリーン「TCX」、都内で初めてドルビーの革新的なシネマ音響「ドルビーアトモス」を導入した「スクリーン8」で鑑賞した。

スクリーン8入り口前に煌々と輝くTCXロゴとドルビーロゴ。結構圧巻のデカさである。
劇場入口前に掲示された今回の映画のポスター。控えめな大きさでひっそりと飾られている
劇場内画像はオフィシャルサイトから引用。かなり広々としており天井に吊り下げられたスピーカーの緑ライトが良い雰囲気

平日というのが幸いしたのか、劇場は閑散とした状況で前後左右とも観客なし、という素晴らしくゆったりとした環境で鑑賞することができた。

セットリスト

シネマのロビーから劇場に移動する際のチケット確認(いわゆるもぎり)を終える際に、係員より配られるのがこちらの一枚

撮影の際のライトの関係でオレンジっぽくなっているが、現物はモノクロである。ポストカードよりは少し大きめの厚めの一枚である。

裏面には映画本編で演奏される「セットリスト」がしっかりと記載されている。これも掲出しようと思ったがこれから見に行く人もいらっしゃるだろうから現状ではその部分をトリミングしたものだけ掲出しておく。

上部にセットリスト記載あり。今回あえてトリミングしカットしている。

本編

さて、上映開始である。予告編にあるとおり、全編モノクロ。予告編では教授の声が入っているが、それもほんの一瞬。人の声はエンドロール含めほぼ一切入っていない。

本編はただ淡々と、さまざまな角度から演奏する坂本龍一の姿を映していく。顔はもちろん、ピアノのペダル、スタジオの壁に映る教授の影、指先、ピアノのミュートが動く様や教授の座る椅子の脚、など。ピアノ演奏に合わせて、というよりは監督が取っておくべきと思ったものを弛まなく撮り続けたのだろう。多少退屈でもあるが、教授とピアノ、その他に何の動きもないという空間の映像は逆に新鮮に脳裏に残っている。

肝心の教授の表情であるが、そこに残念ながら笑顔はほとんどない。晩年ということもあろうが、時折見せる苦しそうな表情。時に楽譜を睨みつけ、指先を確認するように鍵盤に目を落とす。鬼気迫る、とはまさにこの表情であろう。

上映館内に響くのは教授の演奏するピアノの音、ペダルを踏む音、そして教授の息遣い。これのみである。シアターの音響効果も素晴らしい。まるで生演奏のようだ、とはいえないが、幅広い音域をしっかりと伝えてくれている。特に教授がよく使う右端の高音鍵盤のスタッカートされた音や最低音部の空間が震えるような打弦がしっかりと響き渡っていた。

上映時間はおおよそ100分、すべて教授のピアノソロ。もちろんお馴染みのあの曲もたくさん演奏される。教授の音楽はオーケストレーションされたりピアノトリオで演奏されたり、あるいは歌があったり、と様々にアレンジされてきたわけだが、この演奏はどうだ。教授自らの手でアレンジされた、教授の手によるピアノソロ演奏。聴衆もなく、カメラに向かって一人演奏する教授の姿にはある種の孤独すら感じられる。寂寥の思いか、はたまたこれがラストであることを知ってか、流れてくるこの演奏は、坂本龍一の芸術の全て、という趣の最高傑作に私には思えた。

鳴り響く、教授最後のピアノソロ

上映100分を経過し、エンドロールが流れても、劇場が明るくまで席を立つものは皆無だった。

それほど、一人の音楽家の演奏する映像に皆が深い余韻と、そして寂寥を感じたのであろうと私は解釈した。坂本龍一は生前ももちろんピアノソロでのライブコンサートは行ってきていた。この映画で演奏されている曲もかつていくつものアレンジメントを施されて、繰り返し演奏されてきた曲だ。

であるのに。

ここにきて、晩年の坂本龍一の、聴衆のいない空間で本人のピアノのみでアレンジされ演奏された名曲の数々。何ということだ、もう教授はいないのに、最後の最後にこの演奏だ。珠玉の名曲たちに最後のアップデートをして、教授は去ってしまった。

「これが終わりでなければどれほど良かったか」、そう感じた人も多かったのではないかと思う。だからこそ寂寥なのだ。素晴らしい曲と本人による素晴らしいアレンジ、演奏。まるでこれからも永遠に紡がれていくような錯覚。しかし教授はもうこの世にいない。そんな厳しい現実をこの演奏映画をもって改めて突きつけられたように私は感じた。

「芸術は長く、人生は短い」まさにこの映画を持ってこの言葉の意味を理解させてしまった坂本龍一、改めて素晴らしい芸術家である。

まだ見ていない方は是非とも映画館でご覧いただきたい。

隷好堂
隷好堂

仙台市出身・東京在住の40代サラリーマン。音楽愛好者。
レコードやCDの名盤・珍盤・各国盤などの音楽ソフトを紹介やソフト違いの聴き比べ実験を行っています。

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