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Blind Willie McTell / The Early Years 1927-1933 (US-ORIGINAL)

Blues

12弦ギターの使い手、マクテル

今日は戦前のカントリーブルーズマンの一人、ブラインド・ウィリー・マクテルを取り上げたい。

ブラインド・ウィリー・マクテルは1898年生まれ(近年は1901年生、説の方が有力)のブルーズマンである。

民俗学者、ジョン・ローマックスが行った本人へのインタビューによると生まれ故郷はアトランタ州ジョージア南部のステーツボロ(Statesboro、あの有名な「Statesboro Blues」のステーツボロである)。幼い頃に視力を失ったが、弟のロバート・オウエンスによると本人は絶対音感の持ち主だったそうだ。幼少期に父親が家庭を捨てて出ていったため母親と転々としながら幼少期を過ごした。10代後半からストリートで演奏し始めて有名になり、方々に演奏に行くようになった。

同年代のブルーズマンだとブラインド・ウィリー・ジョンソンと仲が良かったらしく、一緒の録音も残されている。放浪癖(演奏旅行)が抜けず、奥さんを置いていろんなところにギターを抱えて旅演奏しにいっていたそうだ。

マクテルといえば12弦ギターで有名だが、彼が使用していたのは一貫してステラ社製のものだったと彼の妻が証言している。いつも同じ楽器店で購入、というか壊れるまで使っては交換してもらっていたという話をしている。

マクテルはレギュラーチューニングとオープンGチューニングを好んで使用していたそうだ。ジャケットのポケットの中にはいつもたくさんのボトルネックを入れていて、曲によって変えていた。

後ほど紹介するアルバムではボトルネックよりもやはりラグタイムの色濃い演奏、それと綺麗な歌声が印象的である。

それでは早速今回入手したアルバムについてみていきたいと思う。

The Early Years 1927-1933 (US-ORIGINAL)

まずはジャケット。

同じ写真を2つ使い、右下は赤バック、メインはグリーンバック、とよくわからないデザインである。おそらく制作時に使えそうな写真がこのくらいしかなかったのであろうと思われる。現在は複数枚、別の写真も見つかっているが、ピントがバシッとあっていてギター弾きとわかりやすい写真はこれがベストの気がする。

左上の孔雀は戦前録音ものに定評あるYazooのロゴである。私も非常に大好きなロゴマークだ。

ジャケットの裏面はよくある貼り合わせジャケである。

左上にSTEREOの表記があるが、これはSP盤から起こした際にステレオ処理したものだ。アルバムタイトルの通りこの録音は1927年ー1933年のものであるので当然ながらテープ録音ではなく蝋管録音→SP盤プレス、つまりはモノラルだ。

聞いた感じでは特にステレオ感は感じないのだが、さすがはヤズーというべきか、盤起こしにしてはノイズが少なくギターも声もある程度クリアに聞き取れる。及第点以上の出来というべきであろう。

レーベル面はヤズー孔雀。実はこの孔雀ジャケになる前のデザインがある。

初版オリジナル、という点ではこのBELZONAレーベルということになる。私が所有しているのはヤズーラベルなのでレーベル的にはセカンドとなる。しかしながらマト番はこちらのBELZONAと同じということなのでオリジナルと言っても良い気がする。

楽曲について

収録曲についてもいくつか取り上げたい。

まずはスライドギターの傑作と呼んでいいだろう、「Mamma’ Taint’ Long For’ Day」。

Wake up mamma, don’t you sleep so hard
Wake up mamma, don’t you sleep so hard
For it’s these old blues walkin’ all over your yard

I’ve got these blues, the reason I’m not satisfied
I’ve got these blues, I’m not satisfied
That’s the reason why I stroll away and cry

Blues grabbed me in midnight, didn’t turn me loose till day
Blues grabbed me in midnight, didn’t turn me loose till day
I didn’t have no mamma to drive these blues away

The big star fallin’, mamma tain’t long fo’ day
The big star fallin’, mamma tain’t long fo’ day
Maybe the sunshine will drive these blues away

Oh, come here quick
Come on, mamma
You know I got you

Mamma’ Taint’ Long For’ Day 歌詞

とっても平たく意訳すると昼も夜も憂鬱(ブルーズ)だ、という歌かと思う。マクテルの歌声は繊細でとても美しい。歌詞と歌詞との間に入るスライドバーの滑る音色とラグタイムなアルペジオが歌にマッチしていて素晴らしい。

続いてはやはりこれ、「Statesboro Blues」だ。

オールマンブラザーズバンドで有名なこの曲だが、聞いてみるとマクテルはスライドバーは使っていない。オーソドックスなブルーススタイルにアルペジオを絡めて若干ラグ、いやジャグチックに演奏している。

ではこの曲をスライドにアレンジしたのはオールマンなのか?と調べてみると、どうやらオールマンの前にタジ・マハールがデビューアルバムでやっているのが最初のようだ。スライドはジェシ・エド・デイヴィス。

聞いてみると、オールマンのようなイントロではないが曲調はまさにこちら。オリジナルはマクテルなのだが、我々の耳に馴染んでいるのはこのスライドバージョン。だからこそ、このマクテルのオリジナルバージョンは一聴してもStateboro Bluesと判別が難しい。とはいえ演奏は素晴らしいのだ。ヤズーの音質も非常にクリアである。

最後は教会の執事となったマクテル

さてマクテルだが、その後1959年まで存命している。肥満・暴飲暴食から糖尿病を発病したのち、「神の啓示を受けた」として晩年はマウント・シオン・パプテスト協会で「執事」として説教を行うとともに、盲目の人々を介助する仕事をしていたそうだ。

1959年に心臓発作で亡くなった。本人の希望は「12弦ギター一台とともに埋葬してほしい」ということだったそうだが手違いで叶わず。しかも石工の手違いで最初の墓石には依頼者の親戚の名前が彫られそこに埋葬されたという。

それから30年後の1983年、新たな墓石とともに移設埋葬されたマクテル。そのマクテルの素晴らしさを同年のアルバムでボブ・ディランが取り上げている。曲名はそのまんま「Blind Willie Mctell」だ。

「誰もマクテルのようにブルーズを歌えやしない」こう歌ったディラン。それから10年後のアルバム「World Gone Wrong」ではマクテルの「Broke Down Engine」と「Delia」をカバーしている。

このカバー2曲がまたとても良い出来なのだ。アコギで弾きがたるディランのブルーズ。こちらも是非聞いてもらいたい。

今日もご一読ありがとうございました。

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