Sonny Red「Images」OJC盤レビュー|幻の名盤を今、聴き直す

Disk Review
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連休明けの緩やかな疲れが残る初夏の午後。ふと訪れたレコード屋で「新着」の箱を漁る。GWもあけたのでディスクユニオンの廃盤セールも一段落、店内は割と落ち着いていた。いつものようにザクザクと盤を掘っているとSonny Redの『Images』が目に止まった。聞いたことないアルバム。ジャケも多分所見な気がする。モノクロの花びら?写真に鮮烈なピンクのタイトル。好きなデザインだ。ジャケットに惹かれて思わず購入してみた。

帰宅して早速プレーヤーに乗せて視聴すると、ソニーの気持ちいいブロウと共演者たちの織りなすグルーヴがとても心地良い1枚だった。休日の余韻がまだ体に残るこの季節、窓を開けて部屋に風を通しながらレコードに耳を傾ける。そんなひとときに、この一枚はまさに理想的な伴侶となってくれそうなので早速紹介したい。

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Sonny Redと「Images」──知られざる傑作の背景

なにせジャケ買いなのでこのアルバムの詳細はよくわからなかった。それで記事にするのも難しいのでいろいろと軽く調べてみた。

Sonny Red(本名Sylvester Kyner Jr.)は、1932年デトロイト生まれのアルトサックス奏者。1950年代から60年代初頭にかけて活動し、ハードバップを軸にしながらも、ソウルフルな旋律感覚と哀愁を帯びたトーンで独自の世界を築いたミュージシャンだ。彼のプレイはしばしばCannonball AdderleyやJackie McLeanと比較されるが、よりメロディアスで内省的な表現が特徴といえる。

彼の代表作としてまず挙げられるのは、1960年にBluenoteレーベルからリリースされたアルバム『Out of th Blues』だろう。この作品には、ウィントン・ケリー(p)、サム・ジョーンズ(b)、ロイ・ブルックス(ds)といった一流ミュージシャンが参加し、堅実ながらも鮮やかなセッションが繰り広げられている。

「Images」は、1962年にJazzlandからリリースされたアルバムで、録音自体は1961年6月25日、および12月14日にニューヨークで行われたもの。プロデュースはOrrin Keepnews。キープニュースと言えばジャズ3大レーベルの一つ「Riverside」の共同創設者だ。

JazzlandはRiverside傘下のレーベルで、無名もしくは活動歴の浅いアーティストにスポットを当てた発掘的なリリースが多く、本作もその流れの中にある。

Personnel

  • Sonny Red (alto saxophone)
  • Blue Mitchell (trumpet)
  • Grant Green (guitar)
  • Barry Harris (piano)
  • George Tucker (bass)
  • Lex Humphries, Jimmy cobb (drums)

Tracklist

  1. Images
  2. Blues for Donna
  3. Dodge City
  4. Blue Sonny
  5. The Rhythm Thing
  6. Bewitched, Bothered and Bewildered

この顔ぶれを見れば、内容の良さは半ば保証されたようなものだ。Blue Mitchellの柔らかく歌心あるトランペット、そしてGrant Greenの鋭さと温かさを兼ね備えたギターワークが、Sonny Redの内省的なサックスと美しく交差し、アルバム全体に静謐な緊張感と透明感をもたらしている。George Tuckerのごきげんなベースも「これぞジャズ!」感があって愉しい。

OJC盤で味わう音の輪郭と余韻

ではさっそく、今回購入の盤を見てみよう。

今回取り上げるのは、Original Jazz Classics(OJC)から再発されたアナログ盤。OJC盤は、その丁寧なリマスタリングとクリーンなプレス品質で、再発盤でありながら比較的良い音質を実現している。特にこの『Images』は、各楽器のバランスが絶妙で、ミドルレンジが豊かに表現されている点が特筆すべきだ。

オリジナル盤はもちろん聞いたことがないのだが、他作でオリジナルとOJCの比較は何度か試みている。傾向としてOJC盤は粒立ちの良く分厚い中音域と静寂感のあるマスタリングが特徴で、音場表現はクラシカルな雰囲気が漂う良い印象を私は持っている。これで1300円ならば十分な出来であろう。

今回の購入版はシーリングも残っており、帯とおぼしきものも付帯していた。ついでなのでレーベル面も。

オリジナル盤は黒地に銀文字、なのだがOJC盤はオレンジ地に黒文字。オリジナルの規格番号は「JLP974」である。私が購入した盤は盤面もほぼ無傷で正直あまり聞かれた形跡がないくらいキレイだった。無論これならレコードクリーニングは必要ない。

さて肝心の演奏だが、Sonny Redのアルトサックスは、過剰な装飾を避け、言葉を選ぶように一音一音を吹き込んでいく。派手さはないが、聴き込むほどにその滋味深さが浮かび上がる。Blue Mitchellのトランペットは、オープンとミュートを使い分けながら、淡い陰影を加えていく。その音色は、まるで5月の陽だまりのように柔らかく、聴き手を包み込む。

Grant Greenのギターは、フレーズのひとつひとつが有機的で、空間の中に染み込むように鳴る。B1「Blues Sonny」は顕著に音の立ち上がりと余韻の美しさが際立っており、OJC盤の高解像度な音場においてその繊細さが際立つ。ジャズギターにありがちな隠り気味の音ではなく、Tボーン・ウォーカーのようなパキっとしたソロを聞かせてくれる。Barry Harrisのピアノは、ブルージーでありながら流麗で、コンピングもソロも流れを崩さず、全体をしっかり支えている。

ベースとドラムは堅実にリズムを刻みながら、随所で機微に富んだアプローチをみせる。Tuckerのウォーキングベースは暖かみがあり、Humphries、Cobbのブラシ・スティックワークも絶妙。OJC盤のプレッシングの良さも手伝って、各パートが澄んだ空間の中に的確に配置されている印象だ。

聴き所:タイトル曲「Images」に宿る美

アルバムのオープニングを飾る「Images」は、この作品の核心とも言える1曲。プレイヤーの呼吸や間の美しさが際立つ。

Redのアルトサックスが左スピーカーから切なくも穏やかに旋律を紡ぎ始めると、続いてMitchellのトランペットが右からテーマをなぞりつつも新たな展開を予測させるリードを取る。このあたりはステレオの良さを引き出している。Barry Harrisのピアノもまた、必要以上に自己主張せず、それでいて確かな存在感をもって支えている。ピアノのメロディの展開にTuckerのベースが寄り添い、ソニーのアルトがまた登場。リズミカルでありながらも正確に刻まれるHumphriesのドラムに導かれて紡がれるメロディはどこか緊張感を感じる。かなりスリリングな印象だ。まるで会話のように各楽器が呼応し合い、ゆっくりと景色を描いていき、いつの間にかフェイドアウト──その繊細なアンサンブルが「Images」という楽曲の核であり、OJC盤はその緻密な構造を見事に再現している。

締めに──ジャケ買いでたまたま発見した埋もれた名作

『Images』は、Sonny Redという天才が残した珠玉の一枚である。

華やかさや派手さはない。だが、ひとつひとつの音に宿る誠実さ、各プレイヤーの真摯な対話、そして録音の質の高さ──そのどれをとっても、丁寧に向き合えば向き合うほどに、じわじわと心に染みてくる。

たまにはジャケ買いしてみるもんだ。あえて派手なアルバムを避け、こうした佳作に身を委ねてみる時間も、音楽との向き合い方として豊かである。ぜひともレコードショップに足を運んで本作を探すもよし、他の惹かれるアルバムを思いつきで買うもよし。ジャズに慣れた耳にも、これから深めていきたいリスナーにも、この一枚は静かな驚きと発見をもたらしてくれるはずだ。

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