いよいよ魅惑?のインド盤発見
さて以前はイスラエル盤について書いたが、今回はいよいよ、インド盤の比較をやっていきたい。
各国盤への興味は留まるところを知らず、な時に見つけてしまったピンク・フロイドの「炎」のインド盤。ヤフオクで約1万円…、正直迷いどころだと思ったが思い切って買ってしまった。ヤフオクなので試聴できないのが非常に怖いところではあるが、、、自分で検証するしかあるまい。
ということで、魅惑の音が鳴るのか?おっかなびっくりディテールチェックから聴き比べをしていきたい。
なお、UKオリジナルと比較したい場合は以前の記事の写真をご参照いただきたい。
ジャケット
まずはジャケット。
イスラエル盤とはステッカーの貼り付け位置が間逆。
ジャケもイスラエル盤と違いラミネート加工されている。
写真だと照明の関係でわかりにくいが、インド盤のほうが背景は白っぽく、イスラエル盤は黄味がかっている。イスラエル盤はラミネート加工もない。インドの方がラミネートされてるってだけで違和感なのは過剰な先入観のせいだろうか。
続いてジャケットの裏面へ。
これも前回のイスラエル盤とは随分違う。
さて、インド盤の裏ジャケについて細かく見ていこう。
イスラエル盤とは異なりインド盤は裏ジャケにインド盤である旨が記載されていてわかりやすい。裏ジャケの右下部分にINDIA表記がある。
レーベル・マトチェック
さて、続いてはレーベル面にいこう。
いわゆるロボット握手ジャケではなく、旧来のイエローグリーンHARVESTレーベルが使用されている。個人的にはこっちのデザインの方が好み。否が応にもシズル感溢れるレーベルだ。
A面のマト。[SHVL814AT1]、と読めるが、[4AT1]の部分に削ったような跡がある。何らかの訂正があったのだと推察される。
同じくA面のデッドワックス部分。合わせて[38 525]と表記されている。
前回同様こちらのサイトを参照すると、やはりインド盤で間違いないようだ。
前回のイスラエル盤は1st~4th Pressまであったが、こちらはこの一種類しかない模様。写真ではうまく取れなかったがスタンパーは[1-10]となっていた。
さて、UKオリジナルのマトは[A1/B3]からスタートするが、このマトリクスを調べてみると、A面は[SHVL 814 A-1]からスタートなので、このインド盤の[AT1]というのはおそらくUK盤のスタンパー輸入ではなく独自でラッカーを切ったように思われる。いわゆる「インド独自カット」盤と思われる。
こちらがB面のマトリクス。
マトは[SHVL814BT1]。こちらはスクラッチ(訂正)跡はない。
UKは前述の通り販売マトは[A1/B3]から始まることを考えると、ここがBT1ということはやはり、インド独自マトである気がする。UKからの輸入スタンパー仕様ではない、と私は判断した。
聴き比べ、その前に真空管カットについてのおさらい
さて、スペックを見たところでいよいよ聴き比べ。といきたいところだが、一応インド盤真空管カットについておさらいしておきたい。
インド盤といえば「真空管カッティング」、すなわち元音源を真空管アンプを使ってイコライジングした音源をラッカーマザーに刻みつけた(カットした)ものが人気である。真空管なのでチューブカッティングなんて言い方もする。
元々レコードカッティングの際に使われるアンプは時代の流れと同期しており、レコード、いわゆる塩化ビニールのレコードが作られ始めた当初は、録音媒体からの音源増幅に真空管アンプが用いられていた。
時代が流れ、60年代後半〜70年代前半くらいになるとこの真空管アンプは非効率、ということでトランジスタアンプにとって変わられる。特に欧米などの先進国ではトランジスタ仕様によるカッティングが主流になっていた経緯がある。
ところがインドやチェコ、旧ソ連などではイノベーションの遅れからなのか、70年代末期まで(あるいはそれ以降も)真空管アンプが使われていた、というのが定説である。
真空管アンプとトランジスタアンプの違い…これはなかなか言葉では表現しにくい。
例えばギターを弾く人はよくご存知かと思う。バンドの練習スタジオに備え付けである2大アンプ、ローランドJCとマーシャル。このうちローランドのJCがトランジスタアンプである。真空管のめんどくさい「暖気」と言われる管が温まる時間は必要なく、スイッチをいれてすぐ音が出て便利である。メンテナンスもほとんどいらず音域も広い。ただ音の起伏が少ないというか、比較的細く冷たい感じの音がする。
対してもう一台の備え付けアンプであるマーシャルアンプは真空管アンプの代名詞的存在である。スイッチを入れて真空管があたたまるまで待たなければならないし、時に菅の中のヒューズがとんで交換にも迫られる。音域もトランジスタに比べると若干狭い気もするが、ふくよかで丸みのある暖かい音がするのが特徴だ。
あるいはストーブで例えると、真空管アンプはアラジンなどのダルマストーブ、ないしオイルヒーターに近いかと思う。トランジスタは石油ファンヒーターといった感じだ。(こっちのほうがわかりやすいかw)
どちらも一長一短あるので最終的には好みの問題だが、レコードではこの「真空管カッティング」を一般的に重宝する傾向がある。ヴィンテージレコードの魅力の一端であることは間違いないだろう。
さて、インド盤がその代名詞!となったのはやはり以前も取り上げたこの本のおかげだろう。
「弦楽器至上主義」「インド盤のシタールの鳴りはUKのオリジナルを凌駕する」など、好事家の興味をそそる記述に溢れている、垂涎の一冊である。かくいう私も、この本をきっかけにいわゆる「各国盤」「多国籍盤」の沼にハマっていった。この本の愛読者ならば、インド盤&真空管カッティングというのは鉄板のターゲットなのである。
ただし、ここで注意が必要なのが、「インド盤だから何でも真空管カットではない」という点だ。
カッティングが真空管なのか、はたまたトランジスタなのか?というのは記録が殆ど無い以上、しっかりと確認できる資料はない。よって、音で判断するしかない。
ただ、ここで大事にしたいのは「真空管であるか否か」について白黒つけることではなく、好事家の望む「インドらしい、独特の、中域と弦楽に寄り切った(振り切った)音が聞ける盤なのか?」という観点かと思う。
もちろん、これまで一度も真空管カットのインド盤を聞いたことがない方にとっては、その聞き分けは難しいかと思う。ぜひ一度お店で値札に「インド盤真空管カッティング」と書かれているレコを試聴していただき、「あー、なるほどー」となることだ。おすすめはビートルズ。ちょいと値が張るが一度は試してもらいたい。
以上、脇道に逸れたがインド盤真空管カッティングについてさらっとおさらいであった。
聴き比べ〜本編
さて脇道が長くなったが、今回のこのインド盤、いわゆるインドらしさが感じられる真空管カット的な音盤か?と言われると、全然違った。
インドらしさは皆無で、非常にのっぺりとした音になっている。
A面だけ比較しても、正直イマイチである。
最高峰のUKオリジナルは言うに及ばず。前回のイスラエル盤はUSスタンパーを使っていて「イスラエル感」は乏しいものの、音の厚みや空間づくりはそこそこ及第点だと述べたが、このインド盤はのっぺりしているだけで起伏も乏しく、正直心が動かされる音では無い…
もしかしたらカッティングは真空管でやっているのかもしれない。その可能性は否定できない。だとしても、いわゆる「真空管カッティングなインド盤」な特色は全く感じられず、正直ガッカリした。つまらんな、と。
ちなみに今回この盤は国内オークションで見つけて約1万円で落札。
やはりこういった多国籍盤は店舗で試聴してから、のほうがいいことに気づいただけ、私はよしとすることにした(諦め)
まとめ
ということで、以下の項目で私なりの感想を一応。(★5点満点=UK)
音作りの丁寧さ:★★☆☆☆
音圧:★☆☆☆☆
低音:★★☆☆☆
高音:★★☆☆☆
音の分離:★★☆☆☆
ご当地感:☆☆☆☆☆(インドを感じるか?という観点ですね)
合計:7点(35点満点)
…辛くつけ過ぎかもしれないが、「インド盤ワクワク感」があったせいもあって、その反動が半端ない。裏切られた感である(勝手な思い込みなのだが)。
なお付け加えると、このレコード自体が決して酷いものではございません。あくまで比較論。
ただ、これを買うなら例えばイスラエル盤とかUS盤とか、UK盤のLATE版とか再発盤とか、そういうもののほうがいいと正直思う。値段相当のものではない。
今回の結論は「人身御供」、これです。
ご一読ありがとうございました。
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