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フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler)のブライトクランク(BREITKLANG)CDについて

CD

ブライトクランク(BREITKLANG)ってなに?

ブライトクランク(BREITKLANG)についてのメモを残しておきたい。

なお、今回はCDの話である。
フルトヴェングラー関連の記事をネットか本で読んだか、あるいはレコ屋の棚で見たか、記憶が定かではないのだが、「ブライトクランクのフルトヴェングラー盤はいくつか良いものがある」というような話は覚えていた。

ブライトクランク=疑似ステレオ?

ブライトクランクとは平たくいうと「疑似ステレオのようなもの」であるらしい。

フルトヴェングラーは1954年に他界している。この1954年は一般的にはステレオ誕生前であるため、その演奏録音はすべてがモノラルである。

活動の時期が戦前〜戦中〜戦後(1954年まで)、という比較的録音技術が乏しいものも多いため、録音状態や音質も良くないものが正直多い印象だ。

演奏そのものはエモーショナルで素晴らしいのだが、録音状態がイマイチのため、もう少しなんとかならないものか…もうすこしクリアに聞けたらどれほどよいか、これは全世界のフルトヴェングラーファンの切なる想いであろう。

そんなフルトヴェングラーファンの切なる想いに答えるべく誕生した技術がどうもこの「ブライトクランク」なるものだそうだ。(もちろんフルトヴェングラー作品以外でも適用されているのかもしれないが、私は具体を存じ上げない)

技術自体は要は疑似ステレオのようなものらしい。ブライトクランク仕様のCDの中にはこれまでのモノラル録音のCDよりも音質が良いものが多い、なんて話をなんとなく聞きつけた私は、「ものは試し」、まずは物を探してみた。

早速サンプル購入→視聴をしてみた

さて、何枚か購入して聞いてみた。

百聞は一見にしかず、である。残念ながらレコードのブライトクランク盤が見つからなかったのでCDで入手した。

感想は意外や意外、このフルトヴェングラーのブライトクランク盤は聞けるものが多い。これまでのモノラルCDよりもいいんじゃないか!と思えるものも結構あった。当初は正直、昔のビートルズの疑似ステレオみたいに聞けたもんじゃないな…というものが出てくるかな?と思っていたが、そうでもなかった。

私がいくつか聞いてみた中で良かったものは後ほど上げるとして、購入したCDの中にブライトクランクについての詳細な説明があったのでまずはそちらを見ていこう。

ライナーノーツによるブライトクランクの解説

さて、まずはブライトクランクについて。

こういった技術(ワザ)ものは正直、理学工学に疎い私からすると根本を理解しようとすること自体が難しい。

CDのライナーノートに別途、説明書きがあったのでそのまま引用・転記しておく。おそらく英語原文を翻訳しているのだろう、非常にぎこちない文章であるが引用ママである。

(以下、文中太線およびラインマーカーは筆者による)

エレクトローラ ブライトクランクとは何か

ステレオが世に出てから12年がたった。 現在ステレオとモノーラルの相違は、 大体次のように認識されている。 モノーラル一方向からの集中的な音 ステレオ······いろいろ違った方向から来る臨場感を伴った幅広い音 確かにこの通りで、このことについてこれ以上議論の余地もないであろう。 しかしながらエレクトローラではステレオの価値について長い間研究を続けてきた。 技術陣、研究室あげてこの問題にとりくんで来た。 即ちレコードの品質を更に向 上させることを欲し、そして又それを世界一の商品価値のあるものに仕上げたい と希望をいつももっているからである。 さて一体ステレオの主なポイントは何であるか。

(1) 音の方向的効果 (2)音の明澄さ (3) 音の深さ (4) 音の幅

これまでのところ、このことに関する統計的調査は存在しない。

しかし、われわれはわれわれ自身の観察を続けて来た。 そしてステレオの一番重要なポイントは 音の幅と深さにあることを発見した。 その他のステレオの特徴即ち方向的効果、 ディテールの強調、再生音の幾何学的正確さといった特徴は、鑑賞者とか技術者 が感激するだけのものである。 このような特徴をもつレコードは、この原子力時代のアーチストによってステレオ録音で実現されている。 しからばフルトヴェングラーとかジーリとかギーゼキングなど過去の演奏家の愛好者は一体どうしたらよいのか。 エレクトローラはこの質問に応ずる答を持っている。

即ち、 新しく開発された エレクトローラ・ブライトクランクによって、 これら過去の偉大な音楽的遺産の愛好者たちに、ステレオによって開発された恩恵即ち音の拡がり、暖かみ、豊か そして音の深さを味わってもらえるようになったのである。

この開発は先ず色々違った好みを持つレコード愛好者の、レコードに対する性向を観察し、それを再評価することによって開始された。即ちステレオ・レコードの持つ色々違った特徴が多くの聴取者にとって、 必ずしも同一の意味を持つものではないということを注意深く分析することを出発点にしたのである。 例えば、ひと頃ステレオの特微について色々異なった意見があつめられた。 ある人はその方向性に非常に感激し、又ある人は左右の音のバランスに興味を持ち、第三の人は音の、拡がりと深さを好み、第四の人はその明澄なそして透明な音質が好きだと云った。 一方五番目の人はこれらの全てを度外視し、 音の指向性によって音楽に対する集中を妨げ られるのを極度に嫌うといった第六番目の人もいる、 という具合である。 長い間エレクトローラの技術陣はこれらの意見のうち、あるものがその他のも のより多数の意見を代表しているに違いないと仮定して観察を続けて来た。そこでこの仮定の正しいことを証明した。 即ち音の拡がりと深さの快い感覚こそが最大多数の共感を呼び得るものであることを発見したのである。

方向的な効果とか、 音の集中とか、再生音の幾何学的正確さといった特徴はスペシャリスト、 エキスパート、 音響技術者などの興味をひきこそすれ、一般聴取者の注意をあまりひかないものであり、これらに興味を持つ人は極めて少数である。 そして多数の人々によって好まれる音の拡がりと深さという特徴は、ステレオ録音にとっては附随的効果に過ぎないけれども、シングル・チャンネル録音によっても充分達成され得るものであることを発見したのである。 こういう意図の下にエレクトローラでは数年間実験を続けて来た。 そしてその結果、モノーラル録音を深みのある音質と快い感覚に富むステレオ的な幅の広い音に変形させるシステムを開発したのである。

このシステムを実際に実験してみたところ、 この再生方法は各社が非常に手をかけてやっているモノーラルをステレオ化したものより、色々な面でわれわれの趣向に合うものであることが証明された。 こうしてわれわれは、はっきりした方向性は持たないが幅の広い音質がわれわれ一般の好みに合ったものであることを 確信するに至った。 そしてこれは又コンサートホールで実演を聞いた場合の臨 場感に非常に近いものである。

こうした長い年月の研究の後、エレクトローラ・ブライトクランク (ワイド・ サウンド) 技術は完成された。この技術により、手元にあるモノーラル録音は2つのチャンネルに分解され、ステレオ装置で再生すると、幅の広い奥行きのある 音が創造され得る。 人工的に音に方向性を持たせるための努力は全然しなかった。 従ってエレクトローラ ブライトクランク・ステレオシステムは各社がやって いる 「音の指向性」ということで特徴づけられているあの擬似ステレオとは全く 範疇を異にするものである。 エレクトローラ・ブライトクランク・レコードはモノーラルプレーヤーでもステレオ・プレーヤーでも再生可能である。 ただ上に述べた音の効果はステレオ装置によってのみ実現できるものである。 (この文章は、ブライトクランクシリーズ初出時に独エレクトローラ社のレコー ド・ジャケットに付けられていた解説です。)

「フルトヴェングラー|ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲」(TOCE-6516)ライナーノーツより引用

うーむ、全部読んだらなんとなくはわかったんだが、「なんとなく」の領域を出ないのは私だけか?

ということで、上記文章をAIに要約してもらった。


エレクトローラ・ブライトクランクは、モノーラル録音を2つのチャンネルに分解し、ステレオ装置で再生することで、音の幅と深さを拡張する技術です。この技術は方向性を持たせることなく、モノーラル録音を幅広く奥行きのある音に変えるもので、擬似ステレオとは異なります。ブライトクランク・レコードはモノーラルプレーヤーでも再生できますが、その効果はステレオ装置でのみ実現できます。この技術は、音楽愛好者に臨場感、暖かさ、豊かさ、音の深さを提供し、モノーラル録音の魅力を向上させることを目指して開発されました。

ChatGPTによる要約

なるほど、これならわかった。おそらくだがモノラル音源を疑似ステレオのように強引に左右に切り分けるのではなく、あえて重ねて幅と深さを拡張するということか。一枚の紙を左右に破くのではなく何枚も重ね、厚みの中で若干の左右の幅を出す技術、そういうことか?と私は拙いであろうが理解した。

ブライトクランクのオススメ盤

さて、ある程度仕組みがわかった上で、何枚か追加で購入してみた。

その中から個人的にこれはブライトクランク盤を体感できるな、と思った数枚をご紹介したい。

フルトヴェングラー|ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

BEETHOVEN:VIOLIN CONCERT YEHUDI MENUHIN (violin) / THE PHILHARMONIA ORCHESTRA (TOCE-6516)(録音1953年4月)

まずはメニューインとフィルハーモニア管で演奏したこの曲。本作はUK ORIGINALのマト1/1でも所有しているのだが、広がりの部分ではブライトクランク盤に軍配を上げたい。ソロヴァイオリンとオケのバランスも素晴らしく、まさに「音の厚みと広がり」をよくよく体験できる好盤である。

フルトヴェングラー|シューベルト「未完成」、メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」

FURTWANGLER | SCHUBERT : “UNFINISHED”VIENNA PHILHARMONIC ORCHESTRA |MENDELSSOHN : VIOLIN CONCERTO YEHUDI MENUHIN (VIOLIN) / BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA (TOCE-6519)

続いてはシューベルトの未完成とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。未完成は特に低音がバリっと出ていてレコードで聞くよりも全体が明瞭、見通しの良い音だ。メンデルスゾーンはヴァイオリンが大変よく鳴っている。箱鳴り、いや泣きのヴァイオリン。これも音場がとても広い。

あ、よくよく見てみると、これもメニューインの演奏だ。メニューインの演奏はブライトクランクと相性がとてもいいようだ。メニューイン、ブライトクランクの法則とでも名付けたい。

フルトヴェングラー|ブラームス 交響曲全集

フルトヴェングラー|ブラームス 交響曲全集 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/
ユーディ・メニューイン(ヴァイオリン)/ルツェルン祝祭管弦楽団(TOCE-9086-90)5枚組

こちらはブラームスのブライトクランク盤BOX。特に交響曲第4番の音が抜けて良いと思う。なおこちらでもヴァイオリン協奏曲の演者はメニューイン。ユーディ”ブライトクランク”メニューイン、まるでブルースマンのような愛称がハマるほど相性が良い。なお本盤BOXは近年中古市場では高騰の一途のようだ。もしご興味あれば早めの入手をおすすめしたい。

フルトヴェングラー|チャイコフスキー、ワーグナー、R・シュトラウス作品集

フルトヴェングラー|チャイコフスキー、ワーグナー、R・シュトラウス 作品集 / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団/フィルハーモニア管弦楽団 / キルステン・フラグスタート(ソプラノ)(TOCE9364-68)

こちらもブライトクランクBOXである。チャイコフスキーの第6番「悲愴」はさすがに録音年代が古すぎるためか、あまり音質向上などは感じられないが、その他はそれなりにいい音がする。こちらも近年高騰盤、といっても一万円くらいで購入は可能だと思われる。

まとめと最後に

いかがだっただろうか?残念ながらフルトヴェングラーのステレオ録音というのはやはり現段階では見つかっていないようだ。過去何度も「幻のステレオ録音」に騙されて?きたファンの方も多いのではないだろうか。

このブライトクランク盤、もちろんステレオ録音盤ではない。しかしながら音の広がり・幅・厚みなど、普通に聞いている分には正直ステレオ盤と変わらない印象である。むしろ何度も再発されているフルトヴェングラー作品のリマスターものと比較しても、凌駕ないし遜色ない出来ではあると思う。親しみ馴染んだフルトヴェングラー作品を新味を持って楽しむ、という点でオススメである。

最後に一つ補足を。

「あれ、フルトヴェングラーといえばやはりベートーヴェンの交響曲では?」と思われた方へ。私も同じように当然考えて、「田園」「合唱」「第7番」を買って視聴した。が、これはあまり良くなかった。正直モノラル録音ままのほうが良い。なんならレコードのモノラル盤のほうが良い。なぜかほとんどブライトクランクらしさを感じられなかった次第である。試してみるのも一興だが、あまりオススメはしないことを付記しておく。

ご一読ありがとうございました。

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