ロックやジャズを頻繁に紹介しているが、一番好きなジャンルは?と言われれば即座にブルーズ、と答える。もちろん毎日聞いてるわけではないが、ギターが趣味ということもあってか、心の拠り所・ギター演奏の軸はブルーズな私。これまでも折にふれてきた。マジック・サムやブラインド・ウィリー・マクテル、マディ・ウォーターズなどなど。たまーにこっそり、密やかに紹介してきたつもりだ。
今日はそんな私の大好きなブルーズコレクションの中でも生涯の名盤認定の1枚を皆さんにご紹介したい。T-Bone Walkerの「T-Bone Blues」だ。
T-Bone Walkerの「T-Bone Blues」は、ブルースの歴史に燦然と輝く名盤だ。1959年にAtlantic Recordsからリリースされたこのアルバムは、T-Boneのエレキギターと魂のこもったヴォーカルが織りなす傑作である。USオリジナル盤モノラルLPとCDを聴き比べ、その音の魅力と違いをレコードとブルーズの愛好家の視点から掘り下げる。レコードの針を落とす瞬間の期待感、ヴィニールの温もりを感じながら、T-Boneのブルースに浸る旅に出よう。
アルバム「T-Bone Blues」の背景と魅力
T-Bone Walker(1910-1975)は、テキサス生まれのブルースマンであり、エレキギターの先駆者だ。彼の滑らかで情感豊かなギターフレーズは、B.B. KingやEric Claptonに影響を与え、現代ブルースの礎を築いた。「T-Bone Blues」は、1955年(シカゴ)、1956年・1957年(ロサンゼルス)の3回のセッションで録音され、1959年にAtlantic Recordsからリリースされた。アルバムは、T-Boneの代表曲「Stormy Monday Blues」をはじめ、シャッフルやスローブルースなど、彼の多様なスタイルを堪能できる11曲(LP)を収録。シンプルながら深い感情が込められた演奏は、ブルースのエッセンスを凝縮している。
このアルバムの魅力は、T-Boneのギターとヴォーカルの絶妙なバランスにある。たとえば「T-Bone Shuffle」の軽快なリズムや「Mean Old World」の哀愁漂うメロディは、彼の人間味あふれる表現力が光る。レコード愛好家にとって、このアルバムは1950年代の録音技術とブルースの生々しい空気感を味わえる宝物だ。
US盤セカンドプレスモノラルLPについて
では早速私の所有盤を見ていこう。


US盤モノラルLP(Atlantic 8020)は、1959年のリリース当時の音をそのまま封じ込めた一枚だ。ジャケットも右側にタイポグラフィデザインが施され、従来のブルーズのアルバムとは一線を画すデザイン性の高さを見せる。背中にギターをしょったT-BONEがまた渋くていい。なお私の所有盤は右上にドリルホールが有る。


レーベル面はセカンドプレスなのでレッドプラム。これがファーストプレスだと黒銀の丸文字アトランティック表記である。

同じくDiscogsで調べると私の持っているものは1962年にリプレスされたものだ。ファーストプレスほどの鮮度はないかもしれないが、私にとってはモノラルであることが重要であったのでさほど気にしていない。
肝心の音の方だがモノラル録音のため、音像は中央に集約され、T-Boneのギターとヴォーカルが力強く響く。トラックリストは以下の通りである。
Side | Track | Title |
Side One | 1 | Two Bones And A Pick |
Side One | 2 | Mean Old World |
Side One | 3 | T-Bone Shuffle |
Side One | 4 | Stormy Monday Blues |
Side One | 5 | Blues For Marili |
Side Two | 1 | T-Bone Blues |
Side Two | 2 | Shufflin’ The Blues |
Side Two | 3 | Evenin’ |
Side Two | 4 | Play On Little Girl |
Side Two | 5 | Blues Rock |
Side Two | 6 | Papa Ain’t Salty |
音質は、アナタログ特有の暖かみと厚みが特徴だ。針を落とすと、微かなサーフェスノイズが1950年代のスタジオの空気を運んでくる。「Stormy Monday Blues」では、T-Boneのギターの弦の震えやヴォーカルの息遣いが立体的に浮かび上がり、ベースとドラムのグルーヴが部屋を満たす。オールマンカバーのこってりとした演奏ではなく、ペキッとした演奏だ。ギターの音がクリアでとても良い。モノラルならではの音の塊感は、スピーカーの間でT-Boneが演奏しているかのような錯覚を与える。特に「T-Bone Blues」のギターソロは、ヴィニールの柔らかな音色で聴くと、まるで彼の指先の動きが見えるようだ。
レコード愛好家にとって、オリジナル盤の魅力は音質だけでなく、ジャケットの質感や盤の重みにもある。Atlanticの赤紫ラベル、ざらっとした紙のスリーブは、時代を越えて手に持つ喜びを与える。状態の良いオリジナル盤は高価だが、Friday Musicの180gモノラル再発盤(Elusive Disc)は、オリジナルマスターの忠実な再現でコストパフォーマンスが高い。
CD再発盤:現代的なアプローチ
さて、今回聴き比べに使ったCDも紹介しておきたい。



CD再発盤は、オリジナル11曲に加え、ボーナストラック4曲を収録し、合計15曲で構成される。私が所有しているものは1989年にリマスターされたもので配給元はワーナーとなっている。
CDはデジタルリマスタリングにより、ノイズが抑えられ、クリアでシャープな音質を提供する。高音域の明瞭さは、ギターの細かなフレーズやシンバルの響きを際立たせる。明瞭さという意味ではアナログより上だ。
レコード愛好家にとって、CDの利点はボーナストラックと手軽さだ。LPでは聴けない曲を楽しめるのは大きな魅力だし、価格もお手頃。しかし、ヴィニールの温もりや針を落とす儀式感はなく、音の奥行きはやや平坦に感じるかもしれない。
聴き比べ:ヴィニールとデジタルの対決
LPとCDを聴き比べると、音のキャラクターの違いが鮮明だ。以下、代表曲での比較をまとめる。
- Stormy Monday Blues
LP:ギターの弦のざらつきやヴォーカルの深みが際立つ。ベースの低音が部屋に響き、まるでライブ会場にいるような臨場感。モノラルの音像は力強く、T-Boneの感情が直に伝わる。
CD:クリアな音質で、ギターの細かなニュアンスが聞き取りやすい。ヴォーカルの輪郭は鮮明だが、LPのような中音域の分厚さは乏しい。 - T-Bone Shuffle
LP:シャッフルのリズムが生き生きとし、ドラムのキックが体に響く。ヴィニールの暖かみが、曲の軽快さを引き立てる。
CD:リズムの歯切れが良く、テンポ感が強調される。デジタル特有の透明感は、現代的なリスニングにマッチする。
LPは、音の厚みと空気感で勝る。ヴィニールのサーフェスノイズすら、1950年代のブルースクラブのざわめきのように感じられる。対してCDは、クリアな音と追加曲で新たな発見を提供する。レコード愛好家としては、LPの儀式感――ジャケットを手に取り、盤をターンテーブルに乗せ、針をそっと下ろす――が、音楽体験を特別なものにするその瞬間をぜひとも味わいたい。特に自分が大好きな作品ならなおさらである。
レコード愛好家へのおすすめ
レコード愛好家、そしてあなたがブルーズの大ファンであるなら、USオリジナル盤モノラルLPを手に入れるべきだと思う。オリジナル盤は希少で高価(おおよそ2〜3万円)だが、セカンドプレスであれば1万円位で手に入れることができる。この楽曲の素晴らしさと音の迫力は投資に値するとブルーズ大好きな私などは思ってしまう。再発盤は3000円程度でも入手できるし、中古LPの再発ステレオ盤なら2000円ほどだろう。モノラルではないがオリジナルマスターの忠実な再現・雰囲気が楽しめるし雰囲気もLPのほうが上だ。ターンテーブルと良質なフォノアンプを使えば、T-Boneのギターがいきいきと響く。
CDも、ボーナストラック目当てなら悪くない選択だ。特に、LPを持っていない場合や、気軽に全15曲を聴きたいときに重宝する。特に私のようなギターを嗜む人であればCDのほうがギタープレイをコピーするには適している。
結論:レコードで感じろ、T-Boneの魂を。ブルーズを。
「T-Bone Blues」は、T-Bone Walkerのブルーズの真髄を味わえるアルバムの一つであることは間違いない。モノラルLPは、ヴィニールの暖かみと1950年代の空気感で、T-Boneの魂を直に感じられる。CDはボーナストラックとクリアな音質で、新たな魅力を引き出す。レコード愛好家なら、まずはLPをターンテーブルに乗せ、針を落とす瞬間を味わってほしい。サーフェスノイズの向こうから、T-Boneのギターが語りかけてくる。その後、CDでボーナストラックを補完すれば、彼の音楽世界を余すことなく堪能できる。
どちらを選ぶにせよ、このアルバムはブルースの深みを教えてくれる。お酒のお供に、宵の口に、深夜寝静まる前に、ぜひともご一聴いただきたい一枚である。
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