パット・メセニー『Bright Size Life』日本盤レコード試聴レビュー|初夏に響く名盤の魅力を徹底解説

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Disk Review
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5月初旬、初夏の柔らかな風が窓から吹き込み、思わずレコード棚の前で足を止める。陽射しはすっかり夏めいてきた。そんな日にはやわらかなギターの音色がよく似合う。この季節に合う一枚、といえば透明感のあるギターとフレットレスベースの音色が心地よい『Bright Size Life』を思い浮かべずにはいられない。

デビュー当時のメセニーはどんな音を紡いでいたのか、そんな期待感がいつも自然と胸に湧き上がる。今日は、そんな季節にぴったりの一枚、パット・メセニーの『Bright Size Life』にフォーカスしてみたい。

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パット・メセニー衝撃のデビュー作『Bright Size Life』

パーソネル

  • Pat Metheny(guitar)
  • Jaco Pastorius(bass)
  • Bob Moses(drums)

収録曲

  1. Bright Size Life
  2. Sirabhorn
  3. Unity Village
  4. Missouri Uncompromised
  5. Midwestern Nights Dream
  6. Unquity Road
  7. Omaha Celebration
  8. Round Trip / Broadway Blues

若きパット・メセニーの衝撃

1976年、ECMからリリースされたパット・メセニーのデビュー作『Bright Size Life』。当時まだ21歳、ギターの音色は既に独特のリリカルさを帯び、のちのスタイルの萌芽が聴き取れる。日本盤レコードのジャケットを手に取ると、そのシンプルで清廉なデザインが当時のECMの美学を感じさせ、期待が高まる。

メセニーはこの頃、バークリー音楽院を中退後、ゲイリー・バートンのバンドに参加し一躍注目を集めた若き才能。彼のギターは単に技巧的ではなく、郷愁や詩情を湛えたサウンドが特徴で、当時のジャズ界に新風を吹き込んだ。特にこのアルバムでは、エレクトリックギターの繊細なニュアンスが随所に感じられる。

ジャコ・パストリアスという存在

『Bright Size Life』の語り口を外せないのがジャコ・パストリアスだ。彼も当時まだ無名に近かったが、すでに並外れた才能を放っていた。のちにウェザー・リポート加入後、革新的なフレットレスベース奏者として伝説となるが、このアルバムでは奔放さと繊細さを絶妙に行き来し、メセニーの旋律に寄り添いながらも強烈な存在感を示している。例えば「Bright Size Life」での歌うようなベースライン、「Unity Village」での高速ランやハーモニクス、「Midwestern Nights Dream」でのうねるようなスライド――どれも彼特有の個性が存分に発揮され、聴く者に鮮烈な印象を残す。この頃のジャコは自己の可能性を切り開くための試行錯誤の最中にあり、その瑞々しい衝動が音に封じ込められている。

レコードならではの魅力

それでは私の所有盤を見ていこう。

いかにもECMらしい淡麗辛口なジャケットである。裏ジャケットの底面部分に2000円の低下表記が加わっている。

レーベル面も緑の標準的なものだ。日本盤ということでカタカナでのアルバム/アーティスト名表記、およびJASRAC刻印がある。

購入価格だが2019年頃、中古ショップで1500円しなかった気がする。後年コロナ禍中でオリジナル盤を8000円程度で見つけたことがある。ちょっと食指が伸びかけたのだが、ただでさえ音の良いECM盤、この国内盤も非常に良い音だったのでオリジナル盤との差異はそれほどないだろうと踏んで購入は見送った。いまなら買ってもいいかな?とも思うが、国内盤でも十分満足だ。

個人的な印象だが、本作はオリジナル盤はもちろん、国内盤でもなかなか市場で見かけることが少ないと感じている。中古ショップでもあまり見かけない。価格はそんなに高くはないのだが、そもそもの数が少ないのだと思われる。パット・メセニーファンはもちろんだが、ジャコ・パストリアスファンにとっても本作は非常に愛好される作品だ。高くはないが数が少ないので見つけたら即買う、という類の稀有な盤と思う。

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さて音質だが、今回はサブスクでの音源と比べてみた。

サブスク音源と比べ、今回の日本盤レコードはまず空気感が違う。使用した試聴環境は、THORENSのTD520ターンテーブル、デノンのDL103Rカートリッジ、そしてSANSUIのAU-607アンプという組み合わせ。ドラムのブラシの擦れる音、ジャコの指が弦を撫でる音、メセニーのピッキングのニュアンス。レコードはそれらを極めて立体的に、しかも柔らかく再現する。MCカートリッジならではの繊細さだ。デジタル音源ではどうしても輪郭がシャープになりがちだが、レコードでは一音一音が空気の中に溶け込み、柔らかく響く。その結果、トリオの一体感がぐっと増して感じられるのだ。

例えば「Midwestern Nights Dream」では、ギターのハーモニクスがレコードでは実に自然で、耳に痛くなく、むしろ音の間に漂う余白を楽しめる。ジャコのフレットレスのスライド音もより滑らかで、人肌のような温かみがある。ボブ・モーゼスのドラムは粒立ちがありつつも、全体を邪魔せず溶け込む絶妙なバランスだ。

バンドメンバーの音の特徴

パット・メセニーのギターは、リリカルでいて理知的。特に高音域の伸びが美しく、コードワークでは少し淡い色彩感を感じさせる。ジャコ・パストリアスのベースは、フレットレスならではの滑らかさと、時にパーカッシブなアタック感を併せ持つ。ベースソロでは息を呑むほどの歌心とテクニックが堪能できる。ボブ・モーゼスのドラムは、音数を抑えつつ的確に空間をコントロールし、トリオの間合いを計るような役割を果たしている。

イチオシ曲「Bright Size Life」

アルバム冒頭を飾る「Bright Size Life」は、そのタイトル曲にして、メセニーのすべてが詰まっている一曲だ。開放的でありながら哀愁を帯びたメロディ。ジャコの浮遊感あるベースライン、モーゼスのタイトで流麗なドラム。特にレコードで聴くと、イントロのギターの粒立ちと空間の鳴りが素晴らしく、聴く者を一気に作品世界へ引き込む。サブスクでは味わいにくい、空気の微細な振動をぜひ体験してほしい。

総括

試聴後、ふと窓の外に目をやると、初夏の陽射しがやけに優しく感じられた。心地よい余韻が胸に残り、しばらくその場を動けなかった。
『Bright Size Life』の日本盤レコードは、ただの過去の名盤ではない。メセニー、ジャコ、モーゼスという才能が交錯した瞬間を、瑞々しい音で記録した貴重な一枚だ。サブスク音源では見落とされがちな、音の輪郭の柔らかさや空間性、そして演奏者同士の呼吸のようなもの。それらはレコードならではの特権だ。このアルバムをまだレコードで聴いたことがない人には、ぜひ一度体験してほしい。きっと、その鮮烈さに心を奪われるはずだ。

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