Art Pepper『Surf Ride』US盤セカンドプレス モノラル盤レビュー|モノラルで甦るジャズの名盤

Disk Review
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新緑がまぶしい5月の風が頬を撫で、心地よい午後の光が差し込む。こんな日に針を落とすのにふさわしいのが、Art Pepperの『Surf Ride』US盤セカンドプレスのモノラル盤だ。木漏れ日の下で聴くモノラルの音は、時間の流れをゆるやかにし、心を満たす。レコードと季節の相性は、何度味わっても格別だ。

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アルバム概要

『Surf Ride』は1957年にSavoy Recordsからリリースされた、Art Pepperの初期の録音を集めたコンピレーションだ。録音は1952〜54年、ロサンゼルスのRadio Recordersなどのスタジオで行われ、ウェストコースト・ジャズの香りを色濃く漂わせる。スタン・ケントン楽団で頭角を現したペッパーは、この頃にチャーリー・パーカーの影響を消化し、自身の明るく澄んだ音色を確立しつつあった。アルバムタイトル曲「Surf Ride」は彼の代表曲で、エネルギッシュで快活な演奏は当時のカリフォルニアの空気を想起させる。ちなみに、このアルバムはアナログ録音全盛期の作品で、セカンドプレス盤もオリジナルに近い音質を持っており、コレクターズアイテムとしても人気が高い。

なおアート・ペッパーの代表作「Art Pepper meets Rhythm Section」のファーストプレスモノラル盤については過去に記事にしている。こちらも参照してほしい。

パーソネル

  • Art Pepper – alto saxophone
  • Jack Montrose – tenor saxophone (tracks 7–12)
  • Russ Freeman (tracks 1–3), Hampton Hawes (tracks 4–6), Claude Williamson (tracks 7–12) – piano
  • Monty Budwig (tracks 7–12), Joe Mondragon (tracks 4–6), Bob Whitlock (tracks 1–3) – bass
  • Larry Bunker (tracks 4–12), Bobby White (tracks 1–3) – drums

曲リスト

  1. “Tickle Toe” (Lester Young) – 2:55
  2. “Chili Pepper” – 3:00
  3. “Susie the Poodle” – 3:14
  4. “Brown Gold” – 2:26
  5. “Holiday Flight” – 3:12
  6. “Surf Ride” – 2:54
  7. “Straight Life” – 2:52
  8. “Cinnamon” – 3:11
  9. “Thyme Time” – 3:30
  10. “The Way You Look Tonight” (Dorothy Fields, Jerome Kern) – 3:48
  11. “Nutmeg” – 3:15
  12. “Art’s Oregano” – 3:08

US盤モノラルセカンドプレスについて

それでは私の所有盤を見ていこう。

なんとも夏らしい、かつ古き良きアメリカを彷彿させるジャケットである。

セカンドプレスなので裏ジャケは巻き貼りのジャケ仕様、右下のSAVOY〜の下にP.O以下、住所の記載が入っている。

レーベル面はマルーン。ファーストプレスだと真紅である。本作はカッティングがルディ・ヴァン・ゲルダー、セカンドプレスでもRVG刻印はある。

なお、このプレスの違いの見分け方に関してはディスクユニオンさんが2018年に発行した「JAZZ VINTAGE VINYL WANTLIST」を参考にした。

私が購入したのも多分2018年頃で、セカンドプレスの販売価格は10,000円くらいだったと思う。あれから7年ほど経過しているので、現在の販売価格はもっと高騰している気がする。

サウンドの魅力とモノラル盤の良さ

US盤セカンドプレスのモノラルは、全体の音が中央に集約されることで、演奏の熱量が直接耳に届く感覚を与える。ペッパーのアルトは鋭くも繊細で、リードの震えや息遣いまでもが手に取るように伝わってくる。ピアノは中低域で厚みを支え、コードの一つ一つが心地よく響く。ベースは太く柔らかく独特の温かみを持ち、ドラムはブラシやシンバルの繊細なタッチが生々しい。特筆すべきは録音の奥行き感だ。名エンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーによるカッティングが施されてるだけあって、鮮明かつ躍動感あふれる音質が実現している。音は若干こもり気味なのだが、時代を考えると致し方あるまい。とはいえさすがのRVGカッティング、モノラルのよさを最大限に活かしている。楽器全体を一つの塊としてのバンドサウンドがくっきりと浮かび上がり、各楽器の細部が互いに引き立てあう仕様と言える。

タイトル曲:Surf Ride

本作は50年代前半の録音ということもあり、ほとんどがスピード自慢?なバップ曲である。その中でも、アルバムの白眉はやはりタイトル曲の「Surf Ride」だろう。

出だしから全開のペッパーは、フレーズの一つ一つに生命力を宿らせる。テーマのあとに続くアドリブでは、音の起伏が大きく、ピークでは聴き手を高揚させ、落ち着く場面ではやわらかく包み込む。バックのリズムセクションも実に活発で、Freemanのピアノソロはスピード感と歌心を併せ持ち、Joe Mondragonのベースは太い音で全体を引き締める。Larry Bunkerのドラムは、ブラシからスティックへの切り替えがスムーズで、全体に軽妙なスウィング感を与える。

終わりに

『Surf Ride』US盤セカンドプレスのモノラル盤は、Art Pepperの初期のエッセンスを凝縮した貴重な記録であり、彼の成長と葛藤の軌跡が詰まっている。モノラル盤の醍醐味は、音楽の芯に触れられること。雑音すら愛おしく感じるアナログの魅力が、そこにはある。本作はジャケットそのままの「古き良きアメリカのジャズ」という側面も持ち合わせており、軽めのノスタルジックな雰囲気も味わえる。レコードの針を落とし、じっくりと耳を傾けることで、当時の空気や温度を気分的に感じ取ることができるだろう。

初夏の午後、窓を少し開け、そよ風とともにこの音楽を楽しむ。そんな時間は、忙しない日常に静かな余白をもたらしてくれる。『Surf Ride』は、古き良きジャズの魅力とアナログレコードの奥深さを存分に味わわせてくれる一枚だ。

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