Rosemary Clooney & Perez Prado – A Touch of Tabasco USオリジナル盤モノラルレコード

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Disk Review
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5月初旬、今日は熱くなりそうだ。朝からじわりと肌にまとわりつく湿気、強い日差しが窓から差し込み、街路樹の影もくっきりとしている。今日はそんなときにピッタリなアルバムとして、「A Touch of Tabasco」を紹介したい。南国の太陽を思わせる情熱的なサウンドと、胸を躍らせるリズム。暑い季節にこそ針を落としたくなる名盤だ。このアルバムは単に音楽を楽しむだけでなく、異文化の出会いや歴史を感じさせてくれる稀有な作品でもある。

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このアルバムについて

1959年、アメリカとキューバの音楽的邂逅

「A Touch of Tabasco」は1959年、RCA Victorから発売された。ローズマリー・クルーニーは、1950年代のアメリカを代表する女性ジャズ・ポップシンガーで、独特の温かみある歌声と表現力の豊かさで多くのファンを魅了してきた。一方、ペレス・プラドはキューバ出身のピアニスト、作曲家、そして”マンボの王様”として知られ、マンボやチャチャチャの世界的流行の立役者となった人物だ。この二人の共演は、当時の音楽界では大胆な試みで、ジャズ、ポップ、ラテンを横断する意欲作として熱狂的に受け入れられた。

制作背景と録音風景

録音はニューヨークのRCAスタジオで行われ、当時の最先端の録音技術と一流ミュージシャンが集結。クルーニーの歌声は繊細さと情熱を兼ね備え、プラド楽団のホーンセクション、パーカッション、ピアノがそれを包み込み、ダイナミックかつ華やかな音世界を構築した。単なるラテン・カバーではなく、互いのルーツを尊重しつつ新たな音楽を作り出そうとする試みが随所に感じられる。緻密なアレンジも聴きどころの一つだ。

パーソネル

  • Rosemary Clooney – Vocal
  • Pérez Prado – Conductor, Piano
  • Pérez Prado and His Orchestra

曲リスト

  1. Corazón de Melón
  2. Like a Woman
  3. I Only Have Eyes for You
  4. Magic is the Moonlight
  5. In a Little Spanish Town
  6. Sway
  7. Mack the Knife
  8. Bali Ha’i
  9. You Do Something to Me
  10. Cu-Cu-Rru-Cu-Cú Paloma
  11. I Got Plenty o’ Nuttin’
  12. Adiós

曲順は、リスナーを最初から最後まで異国の旅へと連れ出すように巧妙に構成されている。たとえば『Corazón de Melón』では恋の駆け引きのような明るさと軽快さがあり、『I Only Have Eyes for You』では甘くロマンティックなムードが広がり、『Mack the Knife』ではジャジーなスリルが楽しめる。『Cu-Cu-Rru-Cu-Cú Paloma』ではしっとりとした哀愁が漂い、締めくくりの『Adiós』では名残惜しさとともに物語が幕を閉じる。冒頭の『Corazón de Melón』では明るく弾けるリズムが心を掴み、中盤の『Sway』ではスリリングなダンスの興奮、そしてラストの『Adiós』では穏やかで余韻を残す別れの情景が浮かぶ。

サブスクでも楽しめる!

現在、「A Touch of Tabasco」はSpotify、Apple Music、YouTube Musicなど主要なサブスクサービスで配信中だ。特にSpotifyではモノラル音源のリマスター版があり、ヘッドフォンで聴いても広がりと密度が感じられる。サブスクを通じて、多くの人がこの名盤に出会えるのは喜ばしいことだ。また、CDやハイレゾ配信でもリイシュー盤が出ているので、音質にこだわるリスナーにも選択肢が広がっている。

モノラル盤での視聴体験とその魅力

では私の所有盤を見ていこう。

水彩画で描かれた二人の顔がなんとも微笑ましい。裏ジャケもキュートなイラストで彩られており、どことなくPOPな雰囲気だ。

レーベル面はRCAビクターの黒ラベル、DGありの犬あり。盤もしっかりとした作りで重量感も申し分ない。

気になるお値段だが、980円。HMV新宿店で2019年頃購入した。ジャケットが写真ではわかりにくいが底抜けしているのと、盤質もそこまで良くない(VG+++〜EX-)ことが要因だ。だがジャケ表面は十分に綺麗だし、盤もおすすめした超音波洗浄を2回ほど実施してEXまではいかないものの、チリパチノイズはほぼ感じない。オリジナル盤でこのお値段はお買い得でしかない。

さて肝心の音質である。USオリジナル盤のモノラルレコードは、現代のステレオ盤やデジタル音源では再現しきれない魅力がある。まず音像の密度が濃く、音の一粒一粒に重量感がある。ホーンの張り出し、パーカッションの生々しさ、そしてクルーニーの息づかいまでもが生き生きと響く。盤に針を落とすと、そこから立ち上がる空気感や臨場感は、音楽が単なる音ではなく体験であることを教えてくれる。

さらに、モノラル盤特有のセンター定位は、アンサンブルを一つの塊として感じさせ、演奏のグルーヴをダイレクトに伝えてくれる。ステレオの広がりとはまた異なる、身体感覚に訴えかけるサウンドだ。

イチオシ曲 : Sway

特におすすめしたいのが『Sway』だ。この曲はもともとメキシコの作曲家ルイス・デメトリオとパブロ・ベラが手がけたラテンナンバーで、数多くのカバーで知られる名曲。クルーニー版はその中でも屈指の完成度で、彼女の柔らかな歌声とプラド楽団の熱気が絶妙に絡み合い、聴き手を陶酔させる。特に中盤のインストゥルメンタルパートは、ホーン、ピアノ、パーカッションが互いに火花を散らし、聴く者の心を一気に熱くする。

まとめ:初夏〜猛暑にも対応できるジャズボーカルものとしては貴重!

暑さを感じる季節には、ぜひこのアルバムをモノラル盤で聴き、心地よいラテンの風に包まれてほしい。実際、私が初めてこのレコードに針を落としたとき、部屋の空気がふっと熱を帯び、まるで異国の街角に迷い込んだかのような感覚に包まれた。ホーンの突き抜ける音に思わず体が揺れ、クルーニーの声に心がほどけていく。

ジャズのボーカルものはどうしてもジトッとした湿気を帯びて、物憂げなものが多い印象をお持ちの方もいるだろう。このアルバムはそんなイメージを払拭するにはうってつけだ。ラテンの熱気の中で、60年以上前にアメリカとキューバの音楽家たちが生み出した軽やかなラテンジャズをお愉しみいただきたい。

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