【HASSELBLAD 500C/M】予習ゼロで高級中判カメラを散財。上野に響く至高のシャッター音「カション」の記録

カメラ・写真
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カメラ沼というものは、底なしである。ライカという至高の相棒を手に入れ、これで私の機材探求の旅は終わったと確信していた。しかし、それは甘い幻想に過ぎなかった。気がつけば私は、スウェーデンが誇る中判フィルムカメラの金字塔、Hasselblad(ハッセルブラッド) 500C/Mを手にしていたのである。

しかも、事前の予習は一切ゼロ。完全なる「ノリ」と勢いである。高級カメラを衝動買いする愚かさと、それを上回る圧倒的な高揚感。今回は、初めての中判フィルムカメラを抱えて上野の街へと繰り出し、ファインダー越しに見た世界と、街に響き渡った至高のシャッター音「カション」の感動を、生々しい熱量のままにお届けしたい。

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予習ゼロの衝動買い。ハッセルブラッド 500C/Mを手にした理由

理屈じゃない。三葉堂寫眞機店での運命の出会い

カメラとの出会いは、時に恋愛に似ている。スペックシートを並べて比較検討するような理路整然とした買い物もあれば、目が合った瞬間に「これだ」と直感で決めてしまうこともある。今回のハッセルブラッド購入は、完全に後者であった。

訪れたのは、日頃から絶大な信頼を寄せている三葉堂寫眞機店。ふとショーケースを眺めていた私の目に飛び込んできたのが、シルバーとブラックの美しいコントラストを放つ500C/Mだった。中判カメラについての知識は皆無。使い方すら怪しい。しかし、その無骨でありながら洗練されたインダストリアルデザインに、私の心は完全に奪われてしまった。「すいません、これ見せてください」——その一言を発した時点で、私の敗北(そして散財)は決定していたのだ。

ライカとは対極にある「機械を操作する」喜び

私が愛用しているライカは、街角の空気を切り取るスナップシューターとして完璧な存在である。小さく、静かで、被写体に意識させない。しかし、ハッセルブラッドは全く逆のベクトルを持っている。重く、大きく、そして何より主張が強い。

フィルムマガジン、ボディ、レンズ、ウエストレベルファインダー。いくつものモジュールが組み合わさって一つのカメラを形成するその姿は、まるで精密な重機のようだ。これを持ち歩くことは、決して手軽ではない。だが、だからこそ「写真を撮る」という行為そのものが特別な儀式へと昇華されるのだ。ライカが「眼の延長」であるならば、ハッセルブラッドは「対話すべき相手」である。この重みこそが、中判フォーマットという未知の領域へ足を踏み入れる覚悟の証拠でもあった。

上野の街へ。ブローニーフィルム(Kodak Gold 200)を装填する儀式

120フィルム装填という至福のプレッシャー

購入したその足で、私は初陣の地として上野を選んだ。撮影を始める前に立ちはだかる最初の壁が、フィルムの装填である。35mmフィルムのように引っ張って巻き上げるだけではない。120(ブローニー)フィルムの装填は、スプールをマガジンにセットし、遮光紙を引き出し、矢印を合わせ、マガジンをボディに装着し、引き蓋(ダークスライド)を抜くという、一連の厳密な手順を要求される。初めての私にとって、それは爆弾処理にも似たプレッシャーであった。

今回選んだフィルムは、Kodak Gold 200。暖かみのある色調が特徴だが、6×6の大きなフォーマットでどのような描写を見せてくれるのか。マガジンにフィルムがしっかりと装填された時の達成感は、デジタルカメラにSDカードを挿入するのとは次元の違う「撮影の準備が整った」という実感を私に与えてくれた。

ファインダー越しに見えた「スクエアの魔法」と作例解説

ハッセルブラッドの最大の愉悦、それはウエストレベルファインダーだ。左右逆像の世界を覗き込み、6×6という正方形のフレームに世界を閉じ込める。この制約が、逆に創造性を刺激する。実際に現像されてきたファーストロールを見て、私はその写りの立体感と、独特の空気感に言葉を失った。

1. 空間を切り取る、という感覚(野球場の風景)

ネット越しに見た、野球場での何気ない一コマ。35mmの長方形では収まりきらない、あるいは余計なものが入りすぎてしまうようなシーンでも、6×6のスクエアは被写体と背景の距離感を絶妙に圧縮し、物語を中央に凝縮してくれる。フェンスの網目と、そこに座る二人。その静寂が、フィルム特有の質感で浮き上がっている。

2. 街の余白を愛でる(自転車の男性)

広い空間にぽつりと置かれたような自転車の男性。この写真は、ウエストレベルファインダーを覗き込みながら、水平と被写体の位置をじっくりと調整した一枚だ。デジタルなら連写で済ませるところを、ここではあえて「待つ」ことで、街の余白と被写体のコントラストを捉えることができた。この「間」こそが、中判カメラの醍醐味である。

3. 一瞬の機微を逃さない(バッターと捕手)

野球の試合中、キャッチャーの構えから打者のシルエットまで。6×6の正方形は、縦位置・横位置という概念を超越する。構図を回転させる必要がないため、被写体の動きに集中し、シャッターチャンスを伺うことに全神経を注ぐことができた。土の質感や空気の湿度までが写っていることに、驚きを隠せない。

4. 線と面の重なり(線路の風景)

規則正しく並ぶ線路と、遠景のビル群。ハッセルブラッドのレンズの解像力と、6×6の広い面が織りなす空間表現は、現代のデジタルカメラとは一線を画す「奥行き」を感じさせる。等倍で見たときの微細な粒状感は、まさにフィルム写真でしか味わえない贅沢な時間である。

5. 街の呼吸を写す(夜のストリート)

最後は夜のスナップ。白黒フィルムの深い黒と、街灯の柔らかい光。モノクロにすることで、ハッセルブラッドの「階調表現」の豊かさがより一層際立つ。人々の表情や、街の湿った空気感までもが、一枚のフィルムの中に凝縮されているようだ。

至高のシャッター音「カション」は、世界に対する宣言である

街に響き渡る音の麻薬

ピントが合った。露出計アプリで測った数値を信じて、絞りとシャッタースピードをセットする。息を止め、右手のシャッターボタンを静かに、しかし力強く押し込む。

「カション」

その瞬間、上野の空気に鋭く、そして重厚な金属音が響き渡った。ミラーが跳ね上がり、レンズ側のレンズシャッターが切れ、後幕が開き、再び閉じる。その複雑なメカニズムが一瞬の内に作動する振動が、両手を通して心臓まで伝わってくる。

ライカの「コトッ」という囁くようなシャッター音も素晴らしいが、ハッセルブラッドのこの音は別格だ。それは単なる機械の作動音ではない。自分が「今、この瞬間の光をフィルムに刻み込んだ」という明確な手応えであり、世界に対する静かなる宣言である。私は一発でこの音の虜になってしまった。大げさではなく、シャッターを切るためだけにこのカメラを持ち歩く価値があるとさえ思えたのである。

ファーストロールを撮り終えて。カメラ沼のさらなる深みへ

12枚のプレッシャーと贅沢な時間

ブローニーフィルム(6×6)で撮れるのは、わずか12枚。35mmフィルムの36枚撮りに慣れていた私にとって、1枚の重みは桁違いである。シャッターを切るたびに、残弾数が減っていく緊張感。デジタルカメラのように、背面液晶でプレビューを確認することは当然できない。

露出は合っていたのか。ピントは来ていたのか。手ブレはしていないか。不安は尽きない。しかし、その「分からない」という状態こそが、フィルムカメラの醍醐味である。現像から上がってくるまでの数日間、期待と不安を胸に抱きながら待つ時間。それは、すべてが即座に消費される現代社会において、この上なく贅沢な時間の使い方ではないだろうか。

ハッセルブラッドが教えてくれた「写真体験」の拡張

予習ゼロで飛び込んだ中判フィルムカメラの世界。ハッセルブラッド 500C/Mは、単に「高画質な写真が撮れる機械」ではなかった。それは、被写体との向き合い方、光の捉え方、そして写真を撮るという行為のプロセスそのものを劇的に変えてしまう、強烈な体験の装置であった。

重い、かさばる、操作が面倒。現代のカメラが進化の過程で切り捨ててきた「不便さ」が、すべて詰まっている。しかし、その不便さを乗り越えた先にある、ファインダーの美しさとシャッター音の麻薬的な快感は、他のどんなカメラでも味わえないものだ。

まとめ

勢いとノリで散財してしまったハッセルブラッド 500C/Mだが、後悔は微塵もない。むしろ、なぜもっと早くこの世界に足を踏みなかったのかとすら思う。

上野の街を歩きながら切り取った12枚のファーストロール。現像から上がってきたフィルムを見て、確信した。このカメラは、私が見ている世界を、より深く、より美しく変えてくれる相棒だ。あのファインダーを覗き、「カション」とシャッターを切ったあの日の興奮は、紛れもない本物なのだから。

カメラ沼のさらなる深みへと沈みゆく男の記録を、どうかこれからも見守ってほしい。

ほえお
ライカと歩く、旅と日常。Leicaを中心としたストリートフォト、旅の記録、暮らしを映像で綴るチャンネル。「流行に流されない、本質的な価値観」をテーマに、以下のコンテンツを配信している。 ・Leica & Photography:Leica …
隷好堂
隷好堂

仙台市出身・東京在住の40代サラリーマン。2級ファイナンシャル・プランニング技能士/AFP資格保持。音楽と旅が大好き。

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