【作例多数】NIKKOR Z 35mm f/1.8 S レビュー!Zfが奏でる「SACD級」の解像感

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時は少し遡って2025年9月。

残暑といえど、夕暮れ時の風には少しばかり秋の匂いが混じり始めたこの時期、私はついにあの一本に手を出した。 NIKKOR Z 35mm f/1.8 S である。

オフィシャルサイトより

私の愛機である Nikon Zf。これまでは主にキットレンズである NIKKOR Z 40mm f/2 (SE) や、趣味で集めたオールドレンズ、スーパータクマーやオリンパスZUIKOのマニュアルレンズなどをアダプタで装着して楽しんでいた。それらはそれで、味わい深く、また機動力に優れた素晴らしい選択肢であることに疑いの余地はない。

しかし、心のどこかで引っかかっていたのが、ニコンが誇る「S-Line」の存在だ。 「S」とは “Superior”、”Special”、”Sophisticated” などを意味するとされ、ニコン自身の言葉を借りれば「ハイレベルな光学性能を発揮するレンズ」に与えられた称号である。

果たして、その称号は本物なのか。そして、あの少し大きく重そうな鏡筒は、Zfのクラシカルなボディと釣り合うのか。 そんな逡巡を抱えつつも、いつもの中古カメラ店で「コンディションA(美品)」の個体を見つけた瞬間、私の理性の堤防は決壊した。価格は9万円を切っていた。今の相場を考えれば、これは「買い」である。

今回は、この NIKKOR Z 35mm f/1.8 S をZfに装着し、実際に街へ繰り出して感じたことを、作例を交えて綴ってみたいと思う。

なお、NikonZfおよび他のレンズに関しても過去にレビューを作ってきた。もしご興味あればそちらもぜひご一読ください。

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スペックと外観の確認:質実剛健な「S」の作り

まずは、公式サイトで確認した基本的なスペックを整理しておこう。

| 項目 | 内容 |

| 焦点距離 | 35mm |
|開放絞り | f/1.8 |
| レンズ構成 | 9群11枚(EDレンズ2枚、非球面レンズ3枚、ナノクリスタルコートあり) |
| 最短撮影距離 | 0.25m |
| 最大撮影倍率 | 0.19倍 |
| 絞り羽根枚数 | 9枚(円形絞り) |
| フィルター径 | 62mm |
| 寸法 | 約73.0mm(最大径)× 86.0mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで) |
| 質量 | 約370g |

ニコン公式サイト:NIKKOR Z 35mm f/1.8 S

スペックシートを眺めていて目を引くのは、やはり贅沢なレンズ構成だ。EDレンズ2枚、非球面レンズ3枚に加え、ゴーストやフレアを抑える「ナノクリスタルコート」が奢られている。さらに、AF駆動には「マルチフォーカス方式」を採用しており、近距離から無限遠まで高解像を実現しているという。

手にした瞬間、その作り込みの良さが伝わってくる。金属的な質感と、適度な重み。フォーカスリングのトルク感も絶妙だ。ただし、絞りリング(コントロールリング)にクリック感はなく、ここは好みが分かれるところかもしれない。

実写レビュー:このレンズは「SACD」である

さて、肝心の写りについてだ。 結論から言おう。「S-Line、伊達じゃない」

ファインダーを覗き、シャッターを切った瞬間、背面のモニターに映し出された画像を見て息を呑んだ。 そこにあるのは、圧倒的な「クリアネス」だ。

NikonZF ISO450 35mm 0.3ev f1.8 1/8000s

40mm f/2 との違い:解像度の質的転換

これまで常用していた NIKKOR Z 40mm f/2 も、コストパフォーマンスを考えれば奇跡的に良く写るレンズだ。軽快で、ボケも美しく、スナップには最適解の一つだろう。 音楽メディアで例えるなら、40mm f/2 は「状態の良いオリジナル盤のレコード」「名エンジニアがマスタリングしたCD」に例えることができよう。温かみがあり、音楽的で、聴いていて(撮っていて)心地よい。十分に高音質である。

NikonZF ISO100 40mm 0ev f6.3 1/500s

しかし、NIKKOR Z 35mm f/1.8 S の描写は次元が違った。 これは、「SACD(スーパーオーディオCD)」、あるいは最新の「ハイレゾ音源」だ。

ピント面から立ち上がる解像感。そのキレ。そして何より、空間の透明感(クリアネス)。 レコードのスクラッチノイズが一切ない、静寂の中から音が立ち上がってくるような感覚に近い。 「キレとコクが増した」とでも言えばいいだろうか。40mm f/2 では空気感として捉えていたものが、35mm f/1.8 S では微粒子レベルの情報の集合体として緻密に描かれる。

ISO2000 52mm(クロップ) 0ev f1.8 1/250

オールドレンズとの決別?:バッキバキの硬質画質

私はオールドレンズの緩い描写や、フレアが盛大に出るような「味」も嫌いではない。むしろ好物だ。 しかし、このレンズが叩き出す画質は、それらとは対極にある。

「バッキバキ」である。 とにかく硬質で、クリア。ガラス細工のように繊細かつ鋭利な描写だ。 開放f/1.8から、ためらいなくシャープ。絞り開放で撮影していても、ピント面の解像度が甘くなることがない。それでいて、背景のボケはあくまで自然でなだらか。 この「硬質なピント面」と「溶けるようなボケ」のコントラストが、撮影していてたまらなく気持ちいい。 オールドレンズでは決して出せない、現代光学の粋を集めた「正解」の描写。Zfという最新のボディ性能を、一滴も余すことなくセンサーに届けている感覚がある。

NikonZF ISO1600 35mm 0ev f1.8 1/125s

なぜ50mmではなく35mmを選んだのか

購入時、最後まで迷ったのが「50mm f/1.8 S」の存在だ。標準レンズの帝王たる50mmか、広角の入り口である35mmか。 私が35mmを選択した理由は、Zfの画質に対する信頼にある。

Zfは約2450万画素。現代のカメラとして飛び抜けて高画素ではないが、その画質は極めてリッチだ。 「画角が広ければ、後でトリミング(クロップ)すればいい」。 単純だが、これが真理である。35mmで広めに撮っておけば、RAW現像時に50mm相当の画角に切り出しても十分な鑑賞に堪える。逆に、50mmで撮った写真を35mmに広げることは物理的に不可能だ。

NikonZf 52mm(クロップ) -1.7ev f1.8 1/30s

この柔軟性を手に入れるために35mmを選んだが、結果として正解だったと感じている。 街角のスナップで、建物や路地の雰囲気を丸ごと写し込みたい時は35mmの画角が生きるし、被写体に寄りたければ自分が動くか、あるいはトリミングを前提に構図を作ればいい。

NikonZf ISO140 35mm 0.3ev f1.8 1/8000s このビルの窓枠の細やかさよ

撮影スタイルと使用感

開放f/1.8への没入

このレンズには物理的な絞りリングがない。そのせいか、あるいはこのレンズの開放性能があまりに素晴らしいせいか、私はもっぱら「開放f/1.8」で撮り続けている。

NikonZF ISO125 35mm 0.3ev f1.8 1/8000s

一般的にレンズというものは、1段か2段絞ったところが最も性能が良いとされる(スイートスポット)。しかし、S-Lineに関しては開放から既にトップギアだ。 周辺減光も味として許容できる範囲だし、何よりその立体感を味わいたくて、絞ることを忘れてしまう。

暗所での無双ぶり

f/1.8の大口径とZfの高感度耐性が組み合わされば、夜のスナップも手持ちで余裕だ。 「とにかく明るい」。 よほどの暗闇でない限り、ISO感度を常識的な範囲(ZfならISO 6400や12800でも実用域だ)に収めつつ、十分なシャッタースピードを稼げる。フラッシュの出番はほとんどないだろう。夜の街のネオン、湿った路面の反射、そういった光の粒子を逃さず捉えてくれる。

NikonZf ISO1800 35mm -0.3ev f1.8 1/250s

唯一の弱点?:サイズと重さ

褒めちぎってきたが、あえて苦言を呈するなら、やはり「大きさ」と「重さ」だろう。 約370g。数値だけ見れば軽量だが、全長86mmという長さは、コンパクトなZfのボディに対して少し「長い」と感じる瞬間がある。

私が愛するM型ライカのズミクロン(Summicron)35mmなどは、驚くほど小さく、手のひらに収まる宝石のようなレンズだ。あの凝縮感と手軽さは、このレンズにはない。 首から下げて一日中歩き回ると、40mm f/2 の時には感じなかった「機材の存在感」を首や肩に感じることは事実だ。

しかし、これは「写りとのトレードオフ」である。 この圧倒的な画質を実現するために必要な物理サイズなのだと、撮れた写真を見れば納得せざるを得ない。

NikonZf 35mm ISO12800 -1ev f1.8 1/200s

それに、M型ライカレンズとの決定的な違いは「AF(オートフォーカス)が使える」ことだ。 動く子供を撮る時、あるいは一瞬の表情を切り取りたい時、爆速かつ正確なAFの恩恵は計り知れない。マニュアルフォーカスでじっくりピントを追い込む愉悦も捨てがたいが、確実性を求めるシチュエーションでは、間違いなくこちらのレンズに軍配が上がる。

NikonZf ISO9000 35mm 0ev f5.6 1/200s

総評:Zfユーザーなら、一度は通るべき「S」の道

NIKKOR Z 35mm f/1.8 S。 それは、Zfというカメラが秘めていたポテンシャルを、暴力的なまでに引き出してしまうレンズだ。

中古で9万円弱。決して安い買い物ではないが、この描写性能を考えればバーゲンセールと言っても過言ではない。 オールドレンズの「味」を楽しむのもZfの醍醐味だが、最新の光学設計がもたらす「解像の極致」を知ることもまた、写真の喜びを広げてくれる。

もしあなたが、40mm f/2 の写りに満足しながらも、「もっとクリアな世界があるのではないか?」と心のどこかで感じているのなら。 あるいは、SACDの音質の深淵に触れた時のような感動を、写真でも味わいたいと願うのなら。

迷わずこのレンズを手に取ることをお勧めする。 そこには、今まで見えていなかった光の粒が見えるはずだ。

隷好堂
隷好堂

仙台市出身・東京在住の40代サラリーマン。2級ファイナンシャル・プランニング技能士/AFP資格保持。音楽と旅が大好き。

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