先日、話題沸騰中の書籍『地球の歩き方 オルカン eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の歩き方』を読破した。結論から言えば、この本は単なる企画物ではない。旅のガイドブックという形式を借りて、現代の資本主義と我々の未来を深く洞察する、極めて野心的な試みだと言えるだろう。
この書籍は、一見すると無関係に思える「旅」と「投資」という二つのテーマを、見事に一つの物語として紡ぎ出している。その内容は、読者をして「これはすごい本だ」と唸らせるに足るものだ。なにより、私のブログのテーマである「旅」そして「投資」を見事に包含している。これほどこのブログで紹介するにうってつけな本はあるまい。
ということで今回は、その驚くべき中身を、より深く、鋭い視点から考察し、レビューする。
なぜ『地球の歩き方』は「オルカン」をテーマにしたのか
まずは、この異色のコラボが生まれた背景から考えてみたい。Business Insider Japanの記事「オルカン版『地球の歩き方』誕生。投資×旅行本の異色コラボ、関係者が語る出版までの舞台裏」によれば、この企画の始まりは、三菱UFJアセットマネジメントの担当者から『地球の歩き方』編集室への一通のメールだったという。
記事の中で、オルカン・アンバサダーの代田秀雄氏は、このコラボの目的を「結婚と同じようなもので、相手のことをよく深く知って、長くこのファンドを持ち続けていただくといい」と語っている。投資信託という無形の商品に、旅行ガイドという有形のコンテンツを結びつけることで、投資家がオルカンに対してより深い親しみと理解を持てるようにするという狙いがあった。
これは極めて優れた戦略だ。投資信託の運用報告書や専門書は、どうしても数字やグラフ、専門用語が並び、多くの人にとって退屈で理解しにくい。しかし、そこに「旅」という切り口を加えることで、世界中の企業や産業が、血の通った存在として立ち上がってくるのだ。このアプローチこそが、本書の最大の成功要因であり、他の投資関連書籍とは一線を画す所以だろう。
最近は「ジョジョ」や「ムー」などともコラボする「地球の歩き方」、ついにこの方向まで出してきたか…と個人的には感嘆してしまった。
旅の視点──“産業”という名の街道を歩く

本書の最大の特徴は、オルカンが投資対象とする世界47の国と地域を、「産業」という独自の切り口で紹介している点だ。従来の旅行ガイドが、観光名所やグルメ情報を中心に構成されているのに対し、本書は「IT産業のシリコンバレー」「自動車産業のデトロイト」といった具合に、その国の経済を牽引する産業に焦点を当てている。
これは、単なる観光情報ではない。「その国の産業や文化を、株式投資を通じて知ることができる」という、新しい旅の形を提示している。読者は、自分が投資したお金が、どの国の、どんな企業で、どのように価値を生み出しているのかを、まるで現地を歩いているかのように体感できる。
楽天証券の投資情報メディア「トウシル」のレビューにも、「世界を巡る知的な旅を通して、あなたの資産形成の未来を拓くヒントを見つけてみましょう!」とあるように、この本は読者に「知的好奇心の旅」を促す。自分が保有するオルカンという”乗り物”に乗って、世界経済という広大なフィールドを巡る。まさにグランドツアーだ。
投資の視点──数字の裏にある「物語」を読む
投資の観点から見ても、本書は画期的な内容を含んでいる。難しい専門用語を平易な言葉で解説するのはもちろんのこと、インデックスファンドの仕組みや、それを支える指数(MSCI ACWI)の成り立ちまで、図解や対談形式で丁寧に説明されている。
特に注目すべきは、ファンドマネージャーの仕事に密着した「ファンドマネジャーの1日大公開」という企画だ。Business Insider Japanの記事でも言及されているように、これにより、普段知ることのできない「投資の舞台裏」を知ることができる。数字の裏側で、プロフェッショナルたちがどのように考え、働いているのか。その「物語」を知ることで、私たちは投資に対する理解をより一層深められる。
また、noteのレビューにも、「一番面白かったのは『オルカンファンドマネージャーの1日』だったりします(割と最初の方)」とあるように、この人間味あふれるコンテンツは、多くの読者の共感を呼んでいるようだ。堅苦しい投資の世界に、働く人の息遣いを感じさせる。これこそが、この本の大きな魅力と言えよう。
いわば通常の「歩き方」の逆、「広く浅く」の世界各国レビュー
さらに、本書の深さは、各国の紹介ページにまで及んでいる。ただ産業を羅列するのではなく、その国の歴史、文化、そして経済がどのように結びついているのかを、簡潔かつ的確に解説している。
これは、本書が単なる投資指南書ではなく、一種の「世界教養書」であることを物語っている。投資を通じて、世界史や地理、社会情勢を学ぶことができる。オルカンへの投資は、単なる資産形成の手段に留まらず、世界を知り、自分自身の視野を広げるための「知的活動」へと昇華されるのだ。
最後に──この本が教えてくれること
『地球の歩き方 オルカン』は、旅と投資という二つの世界を結びつけ、新しい価値を創造した最高傑作である。
この本が教えてくれるのは、「投資とは、単に資産を増やす行為ではなく、世界を学び、自分自身の未来を創るための旅である」ということだ。
この書籍は、これから投資を始めようと考えている初心者にとって、最高の入門書となるだろう。また、すでにオルカンを保有している投資家にとっても、改めて自分の投資が世界とどう繋がっているのかを再認識させてくれる、必携の書となるはずだ。
以前紹介した山崎元さんの著書でも言及されているが、「投資はこの『オルカン』だけでいい」、その意味合いが、金融教育という視点よりも「旅」「世界」という視点からより深く理解できる。
一冊の本が、人生における「旅」と「投資」という二つの大切なテーマについて、これほどまでに深い示唆を与えてくれることに、私は心から感動した。この本を読んだことで、私の旅と投資に対する考え方は、間違いなくアップデートされた。
ぜひとも手にとって読んでいただきたい名著、である。
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